第17章 男傾城
【慶次】
(浅草・・・・って、たしか百之助のお袋さんが働いてところだよな?)──分かった。折角だから路面電車に乗ろうじゃないか。
駅の情報は得ていたので、鐘の鳴る方へ歩き出す。
あれから百之助の母は虚ろな顔を浮かべることなく、まっすぐ前を向いて働いていた。
そこで出会った男性と付き合ってから長年の時を経て、再婚したのがもう5年も前になる。その紳士は色々な土地で商売をしており、今はもう茨城の土地にはいない。
【慶次】
元気にしてるかな。百之助のお袋さん。
【百之助】
どうだろうな。また捨てられてなきゃ良いけど。
【慶次】
いい人そうじゃなかったか。あの人はきっと墓まで一緒に入ってくれるさ。・・・・ごほっごほっ。
【百之助】
ははっ、顔が黒くなるぞ。
初めて乗る路面電車に揺られながら、蒸気の煙で咳き込んでしまう。石炭くささにまいりながら、30分ほどで浅草に到着する。歓楽街に入ると多くの人で賑わっている。
【慶次】
あ、映画館があるぞ。見番はどこになるのかな・・・・。ん?
百之助の母の情報が得られないかと、事務所を探していると百之助は指を絡めてきた。
【百之助】
母のことはもういい。俺はアンタと花街に行きたい。
【慶次】
えっ・・・・。痛ッ
ドキッとしたのもつかの間、顔に熱が集まる前に、絡んでいた指を摘み上げられる。
【百之助】
遊女と遊んだことがあるんだろう?廉一殿に誘われても、いつもアンタが邪魔をするから俺は知らない。保護者のフリをするなら責任とってくれ。
【慶次】
あのなぁ・・・・。
俺だって花街には1回しか遊びに行ったことがない。それ以外は仕事で席にすることはあったが、寄り添う遊女と一夜を共に過ごしたことは一度もない。
しかし軍へ入営すれば、そういう遊びだって覚えるわけだし、避けられない道ではある。