第9章 結婚
時期跡継ぎとして目されるようになってから、次男坊の俺が周囲から若旦那と呼ばれるようになった。
長男である廉一は別家で暮らし、美人な嫁さんと年子の男の子と女の子がいる。あれから店で真面目に働くようになったが、相変わらず花街通いは続いている。
【百之助】
器用だな。俺みたいに坊主にすればいいのに。
裏庭で伸びた髪の毛を切っていると、縁側に座っていた百之助は自分の頭を撫でながらいう。
【慶次】
たしかに坊主頭は楽だが、俺は百之助みたいに似合わないんだよ。
【百之助】
だったら丁髷にしてやろうか?髪は後からでも生えてくるだろうしな。
【慶次】
坊主より丁髷の方が難易度高けぇわ。
百之助は俺の丁髷姿でも想像しているのか、口元が妙ににや付いている。
楽しそうで何よりだ。
【慶次】
昔はあんなに可愛かったのにな。口も悪くなったし、誰に似たんだか。
【百之助】
いつまでも純粋な餓鬼なんているかよ。俺が悪態つくのは遅いくらいだったぜ?
【慶次】
そうか~?
ここに初めてきた頃の百之助は俺の後ろをちょこちょこついてくるような可愛いやつだった。
今ではもうすっかり男らしくになった。
憎まれ口も叩くし、声変わりして俺より低いし、相変わらず肌は綺麗だし、身なりもちゃんとしてるし、娘たちから色目で見られてるし。
塩顔の俺や兄貴とは違って、百之助の顔立ちははっきりしている。おまけに整っているから余計に心配で、いつ恋人を連れてくるか気が気じゃない。
【慶次】
百之助も髪の毛伸ばしたらどうだ?きっと似合う髪型が見つかるぞ。
【百之助】
今はこれで良い。アンタが気持ち良さそうに撫でてくれるから。
【慶次】
っ・・・・。(押し倒すぞっ!)
油断も隙もありもしない。
なんてこの子は人をおちょくるのが上手なんだ。
剃刀ひとつで伸びた髪を剃っていき、手鏡と指先の感覚で調整していく。もう少し耳の横を切ろうかなと思ったその時、俺の散髪時期を狙ってやってくる来客が顔を出した。
【すず】
来ちゃった。