第2章 冬の時期
表情がない子供──。
その子は他の子供たちと混じって遊ぶことはなく、いつも一人でいる。
その子は混じりたそうにする素振りもなく、いつも違う方向を見ている。
それは何を意味するのか。
答えは簡単だ。
親の愛情不足。
──その子の母親は冬の時期になると、毎年、あんこうを買いに魚屋へやってきていた。
【婦人A】
ほら、また今年も来たわね。あんこうを買いに。
【婦人B】
名物じゃないあれは。誰が来年は来ないって言ったのかしら。
【婦人A】
毎日毎日飽きないものね。うちは何鍋にしようかしら。
【婦人B】
今晩は冷えるからあんこう鍋にしたいけど、あの人の顔見ちゃあねぇ。
町中でヒソヒソ話しをするのではなく、わざと耳に届くように会話している婦人たち。あんこうを買った母親は虚ろな笑みを浮かべて店の前を通り過ぎる。
また今年も、あの哀しそうな表情でこの道を通り続けるのだろうか。
【慶次】
(──どうにかしたい。あの母親もその子供も。俺にできること・・・・それは、)
螺鈿細工だ。