第3章 さまになって
「はあ……」
さえりは安土城の自室で、もう何度目か分からないため息をついていた。昨日の事を思い出すと、顔から火が出そうだった。
「なんで、あんなこと言っちゃったんだろう」
それは光秀におねだりした時の事だ。いくら寸止めされたからって、とそこまで考えてさえりは独りで赤くなっていた。
「もう、考えるの止め止めっ」
だが、さえりは今日も光秀に呼び出されていた。夕刻に来るよう言われていたのだ。拒んだらどうなるのか。さえりは光秀に聞いていた。
「嫌だって言ったら?」
「そうだな、その時は俺がお前の部屋へ出向き、襖は全て開け放った上で、昨日と同じ事をしてやろう。誰か来るかもな。秀吉辺り、心配して飛んでくるんじゃないか? お前がその姿を見られたいというのであれば、俺はそれでも構わないがどうする」
伺います、と答えるしかなかった。
意地悪すぎる。私に拒否権は無いではないか。
「はあ……」
どうせ世話役の仕事で、各御殿に文を届けに行くのだ。最後に光秀さんの所へ行くだけ、そう、たまたまだ。自分から喜んで行くわけじゃない。
「喜んでってなによ……」
さえりは自分の考えに自分で突っ込んで、またため息をついた。