第3章 さまになって
夕刻、さえりは光秀の御殿を訪ねた。
「光秀さん宛の文です、どうぞ」
「ああ、すまないな」
光秀は文を受け取りざっと目を通してから引き出しに収めた。
「大事な用事とかなかったんですか」
「ん? ああ、俺とお前の仲を引き裂くような用件はなかったな」
光秀はさえりの意図をあっさりと理解した上で答えた。
「誤解するような言い方は止めて下さい…!」
「怒った顔も可愛いぞ」
光秀は相変わらず、何を考えているのかわからない。
「そう焦るな。まずは夕餉にしよう」
「焦ってなんかいません!」
本当に、何を考えているのかわからない……!
夕餉はほとんど味がしなかった。味付けはしてあったと思うが緊張でわからなかったのだ。
このあと、今日は一体何をされるのだろう?
「落ち着いて食ったらどうだ?」
「光秀さんに言われたくありません」
光秀は出された膳を全て一つに纏め、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べている。
「俺は落ち着いているぞ。飯は効率よく食っているだけだ」
「そうですか……」
効率は良いかも知れないが、どうみても美味しくなさそうだ。
黙々と二人は夕餉を食べ終える。さえりは緊張で僅かに手が震えていた。
「さて……。では期待に答えるとするか」
「き、期待なんかしてませんからっ!」
そう言ったさえりの顔はすでに真っ赤になっていた。