第15章 下剋上
「報告は以上です」
軍議の場で、家康が先日の大名の件を報告していた。
「光秀、家康、ご苦労だった」
「はっ」
「さえりもな」
「はい」
信長が三人を労う。
「この前は興奮して言い過ぎた。悪かったな」
秀吉が謝ってきたが、光秀は驚かなかった。忠臣の秀吉があのように行動することはわかっていた。だから謝る必要など全くない。
「気にするな」
秀吉と自分は相容れないものがあるが、混ざり合えば強くなる。絶対に必要な右腕と左腕だ。
「それにしても、相変わらず無茶するな」
「お前に言われたくはないな」
信長様の事となれば自分の命まで投げうちかねないのが秀吉だ。一体どの口が言うのか。自覚しているのか。無茶という点で人の事は言えないが。
「だが少し自重することにした」
「へぇ、一体どういう心境だ?」
「さあな」
できるだけ無理をしない、努力をすると約束した。
チラリとさえりを見る。さえりは嬉しそうに微笑んだ後、あの時の事を思い出したのか赤面した。
やれやれ、そんな事では周りにすぐ気づかれるぞ、と思う。
「俺からひとつ報告がある」
光秀が真面目な顔で言った。軍議の場が引き締まる。
「さえり、こちらへ」
「はい」
さえりは何故呼ばれたのかわからず、首を傾げながらも光秀の隣へ座った。
ちゅ、とさえりの頬に口づけし、肩を抱く。
「さえりは俺の女だ。手を出すなよ」
一瞬、全員が凍りついた。もちろん光秀以外。
「はっ」
「なっ!」
「えっ!」
「おお!」
「ちょっ!」
それぞれがそれぞれの反応をする。
「お、お前、さえりが信長様のお気に入りだとわかっていて…!?」
「それがどうした。下剋上は世の常だ」
秀吉が口をあんぐりさせる。
「信長様!宜しいのですか!?」
信長は先程から可笑しくて堪らないというように大笑いしていた。
「実は軍議の前に光秀から直接報告を受けていてな」
「事後報告だが。さえりは貰ったと言うので、謀反か?と聞いたら、如何様にもと」
「だから好きなようにするが良い、と言ったのだ」
信長の器がでかすぎて意味がわからない。
「だが光秀が皆の前であのような報告をするとは」
信長は笑い続けている。
「さえり、お前は面白い女だな」