第13章 満月
「初めてお前に触れた日、あの時も満月だったな」
「はい」
その日に見た訳ではないが、翌日の十六夜を二人で見た事を覚えている。
「あの日、俺は本当に夕餉の後、お前を城まで送るつもりだった」
光秀はさえりに目線をうつす。さえりも同じように光秀を見た。
「だが、お前が寝てしまって」
「どうしても触れずにいられなくなった」
月の、魔力の性にして。
「お前に無理やり触れた」
さえりは黙って聞いていた。
「お前が受け入れてくれるのをいい事に、触れていくうち、段々止められなくなってきた。行動も、想いも」
「徐々に惹かれていった」
さえりは目を見開く。初めて知った、光秀の想い。
「だが……」
「俺は暗中飛躍。闇から闇へと突き進む。惚れたからこそ、お前を巻き込みたくなかった」
「この間のような?」
思わずさえりは問いかけた。
「そうだな。仕事自体は簡単な方だったがな」
あれで簡単な方だと言う。確か危ない橋を渡りすぎだと言われていたような気がするが。
さえりは自分の膝に視線を落とし、手をぎゅっと握りしめた。
「でももう手遅れだ」
「え?」
さえりは慌てて光秀の方を見た。
「お前を離せそうにない」
光秀の瞳には火傷しそうなほどの熱が浮かんでいた。
「俺は裏で動く男だ。これからも危険な事はあるだろう。だが、命あるうちはお前の事を守ると誓う」
「ついて来られるか?」
光秀は静かに問いかけた。