第13章 満月
少し遅くなった。
光秀は足早に御殿へと帰って来ていた。報告や後処理などに思ったより時間がかかってしまったのだ。もうさえりは来て待っていると女中に聞かされていた。
「さえり、待たせた……ん?」
さえりは柱にもたれかかり、うつらうつらしていた。
「待ちくたびれたか。それにしても全く……」
無防備な、と光秀は思う。そう、あの日もこんな風にさえりが寝てしまい、つい手を出してしまったのだ。
光秀はさえりにそっと羽織をかけた。
縁側に腰をおろし茶をすする。光秀は夜空を見上げた。そこには綺麗な満月が浮かんでいた。
「ん……」
さえりは目を醒ました。羽織がかけられている事に気が付き、光秀が帰って来た事がわかる。
「光秀さん。お帰りなさい」
さえりが光秀の横に座る。
「起きたか。朝まで熟睡して部屋を占拠されるかと思ったぞ」
「ちょっとウトウトしただけです……!」
コポコポと湯飲みにお茶を注ぎ、さえりに手渡す。
「悪かったな、遅くなって」
「いえ」
さえりがお茶を受け取る。
「見事な満月だな」
「はい」
暫く二人は月を眺めながら、黙って茶をすすった。