第13章 満月
「私、あの日、突然触れられて戸惑ったけど」
「嫌じゃ、なかった」
さえりはぽつりぽつりと話しはじめた。今度は光秀が黙って聞いていた。
「でも触れられていくうち、自分の気持ちがわからなくなって、悩みました」
「その時に、家康と政宗に教えて貰ったんです」
「家康と政宗に?」
さえりの口から他の男の名前が語られるのが気に入らなくて、つい低めの声で聞いてしまった。
「あ、教えて貰ったというか、気づかされたんですけど」
さえりは一度、深呼吸をした。
「私、光秀さんが好きです」
「光秀さんが暗中飛躍だって事は理解しているつもりです。でも、できるだけ無理はして欲しくない」
さえりの瞳が揺れている。心配しているのだろう。
「約束はできないが、さえりが望むなら努力しよう」
光秀の言葉にさえりは微笑んだ。
「こんなに意地悪で優しい光秀さんを受け止められるのは、きっと私だけです」
強い意思を持った瞳が光秀を見つめる。
「一緒に居たい」
「ついて行っていいですか」
先程の光秀の問いかけに、さえりは答えた。
「後悔しないか?」
「わかりません。でも多分しないと思います」
そうか、と呟いた後、光秀はニヤリと意地悪く笑った。
「まあ、もう逃がすつもりはなかったがな」
さえりの頬に手が添えられる。
「えっ、じゃあ何で聞いたんですか」
光秀の顔がさえりに近づく。
「ちょっとした懺悔と、確認だ」
「もう……」
さえりは目を閉じた。
二人の唇が、重なった。