第13章 満月
安土に帰って来てからずっと、さえりはそわそわしていた。昨日は余り眠れなかった気がする。
今日は満月。光秀と約束した日だ。
朝餉の後、何とか落ち着こうと針子の仕事をするが、どこか上の空になる。
「痛っ」
針でおもいっきり自分の指を刺してしまった。じわりと血が滲む。いつもならこんな失敗しないのに。
「はー駄目だ、集中できない」
作りかけの着物に顔を埋める。
「何、言われるんだろう……」
大名のお城では冷たさを感じたのに、あの後、助けに来てくれたときは優しかった。更にそれだけじゃなくて。
さえりは顔を上げ、鏡を見ながら自分の口許に手をあてる。
光秀の唇が、一瞬触れた場所。
自分の鼓動がドキドキとうるさい。
「心臓、持つかな……」
さえりはひとつ、ため息をついた。