第12章 真実
光秀が目的の山小屋を見つけた時、中から男とさえりが出てくるのが見えた。
光秀は馬から降りる。取り敢えずさえりが無事でホッとする。同時に熱い思いと一緒に、スッと頭が冴えていく感覚を覚えた。
「明智光秀! よくも黒陽様を裏切ってくれたな!」
男が叫ぶ。
「おやおや、貴殿は何か勘違いをされておられる」
光秀は飄々と答えた。
「あの場ではああするしか方法が無かったのです。私にとっても苦渋の決断でした。その証拠に黒陽殿が一番に取り立てていた貴殿をこうして自由にしているではありませんか」
男は悩んだ挙げ句、叫んだ。
「ならばこの女を殺してみろ! 信長の大事な姫なのだろう!?」
「やれやれ……この女は大事な交渉材料でしたのに、貴殿の信用を得るためには仕方がないですな」
光秀はさえりに銃口を向ける。男は羽交い締めにしていたさえりに刀を向けたまま、少し離れた。
さえりの後ろには崖。光秀が撃つか、男が刀で突き刺すか、もしくは突き落とされるか。万事休すの状態でさえりはガタガタと震えていた。視線を巡らし逃げるため思案をしているようにも見えた。
「さえり」
「……」
「良い子だ」
光秀から発せられた言葉に、さえりはハッとする。光秀が甘く触れる時に必ずと言って良いほど言う言葉があった。間に入る言葉は。
動、く、な、よ
だ。
さえりはピタリと震えが止まる。動きを止め、光秀を熱く見つめる。信じている。怖くはなかった。
光秀は口許に笑みを浮かべた。
バァーーーン
銃声が響き渡る。銃弾はさえりに向けられていた刀を撃ち抜いていた。
刀を撃ち抜かれた事で、手首をひねりあげられた状態になった男は悲鳴をあげる。
「さえり、走れ!」
「光秀様!」
さえりが光秀に向かって走り出す。さえりを片腕で抱き止めた光秀は、追いかけて来た男に二発目を浴びせた。今度は足元を狙う。
バァーーーン
男は撃たれた足と、その衝撃により目に入った砂利の痛みで、転げ回っていた。
男に戦意が無くなった事を確認した後、光秀は銃を下ろし、さえりをぎゅっと抱き締めた。