第12章 真実
光秀は夜を徹して馬を走らせていた。恐らくさえりを連れ去ったのは逃してしまった黒陽の部下だ。
さえり……!
どうか無事でいてくれ……!
祈るような想いで突き進んだ。
さえりが連れ去られたという場所には、さえりが身に着けていた髪飾りが落ちていた。光秀は黙ってそれを拾い袖にしまう。
ここからは情報が無い。光秀は近隣の村を回り根気よく情報収集をしていった。
「う、ん……」
さえりは目を覚ました。体が妙に重い。何日も眠っていたような気がする。
「目が覚めたか」
「あなたは……?」
「俺は黒陽様に仕える者だ」
ここは山小屋。さえりは手足を縛られ、乱暴に床に転がされていた。
「私をどうするつもりですか?」
勇気を奮い立たせ問いかけた。そうでもしないと、恐怖に負けてしまいそうだったから。
「お前は交渉材料に使える」
「そう、明智光秀が言っているのが聞こえたからな。役立つまで殺しはしない」
こんな時でさえ、私は光秀さんに守られている。さえりはそう感じた。あの人はいつもそう、意地悪で優しい。
「光秀さん……」
愛しい人の名前を呟いたその時、外から蹄の音が近づいてきた。
「もう追っ手が来たのか!」
男はさえりを縛っていた足の縄だけ切り離し、強引に外へと連れ出した。