第8章 熱に浮かされ
光秀はいつものようにさえりの首筋に唇を這わせ、印を付けようとして違和感を感じた。
熱い?
「さえり、お前、熱があるんじゃないのか」
「えっ、そうですか?」
ぼんやりとした声で答えるさえりに、光秀はため息をついた。
「家康を呼んできてもらうから、お前は寝ていろ」
従者に家康を呼ぶように指示を出し、光秀は水を持ってくる。さえりはハアハアと浅い息を繰り返していた。
「熱が上がってきているな……」
光秀は心配そうに呟いた。
「さえりが倒れたって?」
家康は直ぐに来た。
「ああ、頼む」
暫く診察した後、家康は持っていた薬草を調合し、粉薬を作った。
「おそらく風邪ですね。ただ熱が高いんで、この熱冷ましを湯に溶かして飲ませて下さい。後、冷えないように汗も拭いて下さい」
「わかった。悪かったな、急に呼び出して」
「いえ。……じゃ、俺はこれで」
家康は少し何か言いたそうだったが、黙って帰っていった。
さえりに付けた首筋の印を見られたか
まあ仕方がない
光秀は寝ているさえりに問いかけた。
「無理をさせているか?」
荒い息づかいだけが返ってくる。
「さえり、薬だ。飲めるか」
さえりを抱き起こし、薬を入れた湯飲みを、唇にあてがう。
「ん……」
さえりは少し反応したものの、起きる気配はない。
「やれやれ……、一応、律していたんだがな」
ゆっくりと息をつく。
「不可抗力だ。許せ」
光秀は薬を口に含むと、さえりに顔を近づけ直接飲ませていった。