第8章 熱に浮かされ
「うーん、ちょっと休憩」
針子の仕事を追い込みでしていたさえりは、伸びをして立ち上がった。
気分転換にと縁側へ出る。夜風が気持ちいい。さえりは空を見上げた。
「あ、下弦の月。って言うんだっけ」
夜空には綺麗な半月が浮かんでいた。暫く見惚れる。月を見ていると光秀さんの事を思い出す。
「会いたいな……」
ポツリ、と半ば無意識に呟いて、さえりは自分の言葉に驚いた。
誰に?
光秀さんに?
こんな事や、そんな事や、あーんな事までされたのに?
思い出して一人赤面しながら、そっと自分の胸に手を当てた。
ドキドキ、と鼓動が速い。
「好き、なのかな……」
自分の心なのに、自分の想いがわからない。
遠慮なく触れてくるのに、優しく手を引いてくれる。
あんなに酷くて意地悪で、優しい人。
「わからないよ……」
光秀さんの事も、自分の事も。
「仕事しなくちゃ」
さえりは頭を切り替えるため、一つ深呼吸をして、針子の仕事に戻っていった。