第5章 お仕置き
まるで皆勤賞みたい……
鏡に映った自分の首筋を見てさえりはため息をついた。首筋には衿から見えるか見えないかのギリギリの場所に、幾つか赤い花びらが散らばっており、毎回必ず、光秀に付けられていた。
でも、約束は守ってくれてるんだよね……
最後まではしない、という約束。
意地悪な指先は私だけ気持ち良くして、光秀に何の利が有るというのだろう。考えてみてもさっぱりわからない。
「変な人」
さえりはひとり、呟いた。
その日の午後、さえりの部屋を三成が訪ねてきた。
「失礼します。さえり様」
「いらっしゃい、三成くん」
さえりは三成に座布団を差し出す。
「美味しい草餅が手に入ったので、さえり様と一緒に食べようと思って持ってきました!」
座布団に座り、にこにこと草餅を出す三成。
「ありがとう三成くん。今お茶を入れるね」
さえりは立ち上がりお茶の準備をする。何故だろう太陽のような三成の笑顔が眩しく感じる。
月を見すぎたからかな……
ふと光秀との事を思い出して赤くなってしまいさえりは慌てて頭を振った。
「どうかされましたか?」
「ごめん、何でもないの。食べよっか」
不思議そうに見つめてくる三成に、慌ててお茶を渡した。
「世話役の仕事はどうですか? 針子の仕事もあるし大変ではないですか?」
「ううん、充実してるよ」
もし、世話役を引き受けてなかったら。光秀との今の関係はなかったのだろうか。
そんな、寂しいみたいな……
さえりはまた頭を振る。
「大変だったら直ぐにおっしゃって下さいね」
さえりの態度に少し首を傾げながらも、三成は微笑んだ。
「わ、わかった。この草餅美味しいね! 何処で買ったのかなっ?」
「あ、それはですねー」
さえりは話題を変え、敢えて光秀の事を思い出さないように努めたのだった。