第5章 お仕置き
さえりが三成と草餅を頬張っていたのと同じ頃、光秀は御殿を訪れた秀吉と話し合いをしていた。
「決めなきゃいけない事は以上だな」
打ち合わせが終わり、こほん、と秀吉は一つ咳払いをした。
「あー、さえりとは仲良くしているのか?」
内容を書き留めていた光秀は筆を止め、秀吉を見た。
「どうした急に」
「いや、さえりに想い人がいるんじゃないかって噂があってだな……」
さえりと会う時は細心の注意を払っているし、そんな噂は聞いた事がない。情報網は張り巡らせている。という事は。
「情報源は政宗か」
政宗の動物的感は侮れないものがある。味方で良かったとつくづく思う。それで秀吉は鎌をかけてきたのか。
「まあな」
秀吉は照れたように頭を掻いた。
「お前に諜報は向いてないぞ」
「うるさい。で、どうなんだ」
やれやれ……と光秀は思う。過保護な兄もここまでくると立派だ。それとも別の想いがあるのだろうか。
「さえりの想いなど、さえりにしかわからないだろう。直接聞いてみたらどうだ」
「そうだな、悪かった。変なこと聞いて」
帰ろうとして立ち上がった秀吉がふと振り返る
「想い人かどうかは別にして、あまりさえりをからかい過ぎるなよ」
「それは約束できないな」
ニヤニヤする光秀に対し、ため息をついた秀吉は、また来ると言って帰っていった。
無理な話だ、あれほど苛めがいがあっては
さえりとの事を思い出して少しだけ緩んだ口許は、光秀自身さえ気付かないものだった。