第7章 チェシャ猫ルート①
【選択肢】
→①受け止める
②受け止めない
* * *
私はその『何か』を空中で受け止める。両手を開くとチャリ…と音がした。
「……ネコ」
薄い紫色に着色されたストラップだった。
先に可愛げのない表情で笑うネコの顔がぶら下がっている。
……でも、ちょっと、カワイイ。
突然すぎて言葉が出ず、目を丸くしている私を見て、鈴也は猫のように笑った。
「アリス、カワイイ!」
クイクイと猫の仕草を真似て「大成功ニャン!」と大喜びする。
「そのストラップ、アリスにあげる」
そう言って鈴也はプリンを口に運んだ。
……プリン?
改めて鈴也の手の中のモノを見る。
それは、食後にとっておいた新発売の『とろけるキャラメルカスタードプリン』だった。
「あぁ! 私のプリン!!」
しかも悪いことに、彼が食べようとしているのは最後の一口だ。
「あ――……」
「あぁ――」
最後の一口を食べようとする鈴也。
目の前の事態がショックで「鈴也を止める」という簡単なことが思いつかなかった。
馬鹿みたいに口を開けて、私は悲鳴を上げる。
成り行きを見守ることしかできない――と半ば諦めていると……。
「ん、むッ!?」
口の中にプラスチック製のスプーンが突っ込まれると、鈴也はニヤリとイタズラな笑みを浮かべて、それを引き抜いた。
同時に、舌にとろけるような甘味が広がり、つるりと滑らかなモノが喉を通過する。
考えるまでもなくプリンだ。
「おいしかった?」
「うん……って、それ、私のプリンだから!!」
思わず立ち上がって怒鳴りつける。
食べ物の恨みを知れ! と怒りの念を込めてぶつけてやったが、猫のような素早さで逃げられた。
手元に残ったのは、食べ終えたサンドイッチと半分残っているオレンジジュース、一口しか食べられなかったプリンのカラ、そして……。
ネコのストラップだけだった。
* * *