第8章 軍神と魔王
葉月が慌てて出ていって間もなく
謙信が広間に姿を表した
「越後の龍がなに用だ?」
「・・・・・貴様に用はない」
「先ほど毛を逆立てた猫が一匹逃げて行ったぞ」
クルリと背を向け歩き出そうとした謙信の背に
ニヤリと笑みを浮かべて信長は声をかけた
「何かに"追われている"
という感じだったな」
「好きな甘味を食べずに逃げるくらいだ
よっぽど会いたくないんじゃねえか?」
「・・・嫌われてますね」
「猫さんに嫌われる人がいるのでしょうか?」
「煩い黙れ三成」
次々に投げ掛けられる言葉に
謙信は眉間に皺を寄せた
「野良猫は早く捕まえた方が良いぞ」
「他の誰かに懐く前にな」
「・・・貴様等に言われずとも
俺以外の男になど懐かせるつもりなど無い」
ギロリと鋭く睨み広間から出ていった
「あの女嫌いが女を追いかけるとは
これ以上面白いことはないな」
「見張りますか信長様?」
「いや、貴様らはいつも通りしていろ」
「「は!!」」
「いい暇潰しが出来そうだな」
葉月が残した甘味を持って
信長は天守へと上って行った