第7章 秘密と軍神
あの女と出会ったのは偶然だった
安土城下で酒を飲んでいると
何処にでもわく低能なやから
その男たちに無謀にも立ち向かった女が葉月だった
女と言えば媚を売るだけの
煩わしい生き物としか思っていなかったが
あの時の男どもに立ち向かった葉月は凛としていた
『その料理が不味かったとしても
食べたら代金を払うのはいつの時代でも同じです
あと訂正しときますけどこの料理美味しいですよ?
これを不味いと言うなら貴方たちの舌に問題ありですね』
図星を刺された男どもはあろうことか
丸腰の女に刀を抜いた
『ホント言動だけでなく行動までも
男の風上にもおけない情けないやつ』
抜かれた刀に怯える素振りも見せず
逆に呆れたような口調で言い捨てた
いつもの俺なら見向きもしないが
何故かその時はその女葉月のことを庇った
「黙れ酒が不味くなる
そんなに殺り合いたいなら
俺が相手をしてやるかかってこい」
見た目道理のザコで刀を抜く必要もなかった
代金を払い店を後にしたが後ろから
葉月に声をかけられた
『助けてくれてありがとう』
「お前を助けた覚えはない」
そう言いチラリと振り向けば
頬を微かに染めた茶色の瞳に
心が震えたような気がした
葉月と出会ってから数日後
再び店に酒を飲みにやって来た
店の奥で一人酒に舌鼓をうっていると視線を感じた
気づかれぬようチラリと視線を送ると
葉月が一人座り酒をちびちびと舐める様に飲んでいた
半刻程かけて徳利を一本呑み席を立った
「先ほどの女はよく来るのか?」
「ええ、この間の騒ぎの日から
毎日お見えですよ」
道に出て葉月が去って行った先に
目を送るがそこにいるはずもない
葉月の事が気になるのか自分でもわからない
視線の先には信長が居る安土城
織田信長と休戦協定を結んだとはいえ
いつかは奴を決着をつける
俺は女になど現を抜かす様な男ではない