第1章 甘味やの看板娘
信さんが村を出て行った次の日に
安土方面から馬に乗った武将が数人村を通過していった
そしてさらに次の日には
白銀の髪に琥珀色の瞳が印象的な長身の武将がやって来た
「茶をもらえるか?」
『ただいまお持ちいたします!』
急いで厨からお茶を持って帰って来ると
その男性は一気にお茶を飲み干した
飲み干した湯呑を受け取りもう一杯差し出した
すると今度はゆっくりとお茶を飲みだした
「今度は程よい熱さだな」
『座る前にお茶を欲しがる方には
温めのお茶を出しています』
「ほぉお前よくわかっているな」
ニヤリと男は意地悪く微笑み湯呑とお金を渡してきた
『えっ!こんなにいただけません!!』
お茶だけしか頼んでいないにもかかわらず
大金を渡され返そうとすると
"また寄らせてもらう"と言って行ってしまった
『ありがとうございました!!』
去り行く背中に頭を思いっきり下げ見送った
また会えると良いなと思っていたわたしだったが
自分がこの甘味やを近くに出ていくことになるとは
この時思いもしていなかった
この数日後本能寺が燃えた"本能寺の変"だ
しかしわたしが知っている歴史とは違い
織田信長は生きているらしい
それを知ったのは本能寺が燃えたその日の昼に
織田信長らしき武将たちが村を通り過ぎて行ったからだ
そしてその日の夕刻に馬の駆ける音が店に近づく
店じまいをしようとしていたわたしは近づいてくる馬を見つめた
暗闇に染まりかけていた村に二頭の馬が駆けてくる
「おい秀吉。少し休憩しねえか?」
「ああそうだな政宗
すまないがお茶をもらえるか?」
『あっはい!』
急いで厨からお茶を持ってくると
眼帯の政宗と呼ばれた人は馬に乗ったままもう一人の
秀吉と呼ばれた人は馬から降りてお茶を受け取った
「ありがとな」
お金を差し出しすぐにまた馬で駆けだそうとしたが
政宗さんと一緒に乗っていた人を見てびっくりした
そこにいたのはわたしの友人である椿だったから
『お侍様!今から帰られるのですか?』
「なぜそんなことを聞く?」
『もう暗くなります。夜道は危ないですので』
「俺たちなら大丈夫だ
朝方までには安土城に帰らなきゃなんねえからな」
じゃあなと言って去って行った二人を見送った