Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第6章 眼鏡と読書が趣味なんです。【沖矢昴】
男性に、一歩距離を詰められて、思わず一歩後ずさる。
脚元に台車の端がつっかえた。
彼は更にもう一歩近寄ってくる。
・・・脚が震えそう。
「そんなに怯えないでください」
「・・・はい」
「僕に興味をお持ちなんでしょう?」
「っ・・・!?」
「教えてあげますよ。今晩食事でもいかがですか」
「そ、そんな急に言われても・・・行けません・・・」
「・・・そうですか。まあ、僕達まだお互いの名前も知りませんしね。さん、下のお名前は何とおっしゃるんですか?」
「・・・です」
「さん。素敵な名前ですね。僕は沖矢昴と言います」
「おきやさん」
「ええ。よろしくお願いします。ゆっくり仲良くなっていきましょう?」
「は、はい・・・」
握手を求められ、それには応じた。
彼と食事に行くのは全く嫌じゃないんだけど、ビックリしすぎてどうしたらいいものか分からず、断ってしまった。
「あの、読みたい本が見当たらなかったらあそこのPCで検索できますし、貸出中なら予約もできますし、またおっしゃってくださいね」
適当な言葉を言い放ち、慌てて台車を押して同僚のいる受付に戻る。
「ど、ど、どうしよう・・・」
「どうしたんですか?」
「あの眼鏡のハイネックの人に食事に誘われました・・・断っちゃったけど」
「うっそ・・・やっぱりさんに気があるんじゃないですか・・・」
「どうしよう・・・名前、おきやすばるさんって言うんだって」
「なんか芸能人みたいな名前ですね・・・えーちょっと、なんで断っちゃったんです?」
「だって急すぎません?」
「そういうのって急なもんですよ」
「そう!?」
久しぶりに心がソワソワしている。
男性に食事に誘われたのなんていつ以来だ・・・
次は断らないでおこうと、心の中で決める。
(また誘ってもらえる保証はどこにもないけど)
数時間後、例の彼が図書館を出る帰り際。
いつもならフワッと微笑んで帰る彼が(その笑顔が堪らなく素敵なんだけど)、
今日は表情をあまり変えず軽く会釈しただけで帰っていき、なんだか寂しい気持ちになる。
これはお誘いを断ったのが原因なのか・・・
また会えたら謝ろうかな・・・