Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第38章 Top priority -最優先事項-【降谷零】
温泉旅館に入り通されたのは広々とした畳敷きの部屋。同じく畳の続きの間には広めのベッドが2台、旅館おなじみの縁側の更に外側には露天風呂と庭まで付いている。(よくこの日にこんな良い部屋の予約が取れたものだ)
室内の床の間にはシンプルな生け花、その後ろの壁にはいかにも古そうな掛け軸が掛けられていた。
骨董品の価値は到底分からないけど、生けられている植物には無性に目を惹かれた。水を張った平たい器に蓮(ハス)が生けられていて、複数の葉の中からすっと伸びた1本の茎の先には淡いピンク色の蕾が付いている…とってもシンプルだけど、それが返って洗練されてるようにも見える。
思わず近くに寄って膝を折り、瑞々しい葉やふっくらした蕾を眺めていれば、ほのかに香ってきた気がする花の甘い香り。目を閉じて吸い込む。
「良い匂い…」
「ん?……蓮か…」
「ねー…なんか涼しそうでいいよね…って零はお花には興味ないか」
「そんなことないぞ、綺麗だなとか、儚いとか…人並みに思ったりする…まあたしかに、どちらかと言えば花よりレンコンの方が…」
「だろうね…」
「でも同じ花ならそっちの花よりも違う花の方に興味があるな」
「あっ!花火?時間大丈夫だよね?」
「……花火は大丈夫。そうじゃなくて、僕が興味あるのはこっちだ…」
「…!」
隣にやって来た零がその場に膝をつき、髪飾りにそっと触れてくる。それから、しっかりとセットされた髪の毛にも所々……
「のこれは全部地毛なのか?」
「そうなの!ある程度長さあればこういうの出来るみたいで!すごいよね!」
「……すごい。すごく綺麗だ」
「あ…ありが、とう……っ!?」
零は私の後頭部を眺めてる、と思ってたら不意に首の後ろに吐息が掛かって…無意識に身体が固くなる。そのままでいれば零は項に唇を落としてきた……チュ、っと小さな音を立てて唇は離れていくけど……身体が固まってしまって動けない……!
そして酷く真面目なトーンで彼は呟く。
「今すぐメチャクチャにしてしまいたいくらい可愛いな…」
「……やだよ?…花火行くんだよね…?」
「分かってる。でも少しだけ…」
もう一度、項にキスをされ、続けて髪の生え際や首すじまで、何度も湿った音を立てて啄まれる。
……ダメだ、こっちまで変な気を起こしてしまいそうになる。