Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第38章 Top priority -最優先事項-【降谷零】
自宅に戻り、することもなく待つ……ちなみに今日明日の予定は、零に完全に任せっきりで、花火が見られて泊まれること以外は何も知らされていない。
しばらくベッドの端に浅く腰掛けていれば、窓の外から聞き覚えのある車のエンジン音がかすかに聞こえてきた気がした。
数秒後には零の車の音だと確信し、荷物を持って部屋を出る。1階へ降りればスマホが彼からの着信で鳴り出した。
スマホを手に取るも、マンションの玄関口から前の道路に停まっている零の車が見えたので、カバンに戻した。
手を小さく挙げて車に小走りで駆け寄り、ドアを開けて乗り込む。
「零ー!おつかれ!」
「ああ…」
荷物を後部座席に置き、しっかりと助手席に座っても、着信音は未だに鳴り続けている。
「電話…」
「…ああ、切らなきゃな」
零がスマホを操作し、ようやく止まった着信音。改めて運転席の彼を見れば……零も浴衣姿だ。いつもと違ってなんだかいい。合わせからほんの少しだけ覗く胸板…それが鍛えられた分厚いものだと分かってるからか、ちょっとドキドキしちゃう。
毎週のように零と会ってはいるけど、こんなにじっくりマジマジと恋人の姿を見たのは久しぶりかもしれない。
「零は浴衣も似合うんだねー…カッコイイ!」
「もな。あんまり可愛いから電話切るのも忘れてたよ」
「…可愛い?」
「可愛い。間違いなく」
「よかった…」
美容室で髪に付けてもらった花を模した飾りをカサカサと触られ。前髪と頬を撫でるように零の手が滑り…こっちに身を乗り出してきた彼と僅かに唇が触れ合う。会うなり車の中でこんなことされたのは初めてだと思う…今日はいつもと違うことずくめで…ほんと落ち着かない。
「よし、行こうか」
「うん…」
まだ明るい街中に、けたたましいエンジン音を上げながら車は走り出した。
高速に乗り、県境を越えて、途中で小休憩も挟んで……車が下道に降りる頃には日が落ちかけてきていた。ここは隣県の温泉地だ。
大きめの河川に沿って細い道をしばらく走れば、浴衣姿で歩いている人もちらほら見えて…そして立派な佇まいの旅館らしき所で車は止まる。
周りより少し高い所に位置している歴史の有りそうな建物。
「すっごい…良い所っぽい……」
「きっと喜んでもらえると思うぞ」
「うん、すでに喜んでるよ…」