Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第37章 その唇、食べちゃいたい。【萩原研二】
ニコニコと愉しそうに言われると、なんだか断れなくて…
コットンにリムーバーを染み込ませ、自分の唇を拭き取り、紅筆に取ったリップクリームを唇に乗せていく。
近くから熱心に見つめられると、結構照れ臭い……
でもこの香りは本当に好きなんだよな……
「ほんとだ、良い香りだ。唇もウルウルしてて食べちゃいたくなるね」
「ふふっ、そうですよね、ぜひプレゼントして、食べちゃってください」
「あー…そんな相手へのプレゼントだったらいいんだけどね?」
「あれ?奥様か彼女さんに、ではないんですか…?」
「…姉貴。顔は綺麗だけど超おっかねー姉貴がいてさ…誕生日祝うの忘れたらしこたま怒られんのよ…」
「なーんだそうなんですね!弟さんからのプレゼントなんて素敵ですー!羨ましい!」
“姉貴”と聞いた瞬間、心の中の自分が物凄く喜んでるのが分かった。
「そう?じゃ、コレ2つちょうだい」
「おふたつ…ですね?ありがとうございます!ラッピングはされますよね?あと…こちら、キャップにお好きな文字も刻印できるんですがどうなさいます…?その場合は明日以降のお渡しとなるんですが…」
「んじゃ、せっかくだしお願いしよっかなー…」
「はい。じゃあ、こちらの用紙に記入を……刻印は2つとも同じでいい…ですか?」
「いーや。片っぽは、“チハヤ”で……あ、ラッピングも別々にしてね。もう片っぽは、ちゃんの好きな文字にして」
「そんな!決められません!」
「じゃー、“”、で」
「“”、ですか…?」
「嫌なら他の文字でいーよ?」
「嫌という訳では……分かりました……それでは、明日の開店までにはご用意しておきますので、また取りにいらしてくださいね」
「ちゃんは明日も出勤?」
「はい。お待ちしてますね!」
「オーケー。んじゃよろしくー!」
とびきり素敵な笑顔を残して手を振り売り場を去っていく彼……その後ろ姿からしばらく目が離せなかった。
承り帳に書かれたお名前は“萩原研二”様。片方はお姉様へのプレゼントでいいけど、もう片方は何なのだ。しかも名入れが適当すぎる……何考えてるんだろうか。
彼はイケメンだけど相当な変わり者かもしれない。