Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第37章 その唇、食べちゃいたい。【萩原研二】
様々な香りが漂う何処か異質な空間、米花百貨店の1階。売り場のほとんどを占めているのは化粧品売り場、その中の1つが私の仕事場だ。
このフロアを訪れるお客さんのほとんどは、美容に関心のある女性。
男性のお客さんもいるにはいるけど……その多くは恋人や奥様へのプレゼント選びが目的。そして残りは……ひやかし、というかBAのナンパ目的……
あれは、天気のいい日の昼過ぎだったと思う。
コスメフロアに一人の男性がふらりと入ってきた。さすがにジーッとは見ないけど、物珍しさからチラチラと視線を送っていた。
長めの黒髪に、ジャケット姿。何かを探すようにフロア内を眺める彼の顔立ちは、所謂イケメン……稀に見る好みのタイプの男性だった。
チラチラどころか気付けば彼にしっかり視線を囚われてしまっていて……突然バチッと目が合ってしまい。
胸が急激に騒ぎ出す中、顔面に笑顔を貼り付け軽く会釈すれば、ニッコリ素敵な微笑みを返され……倒れるかと思った。
その彼が真っ直ぐコチラに向かってきたから更に驚く。
彼なら、ひやかし目的でも大歓迎なのに……悲しいかな、大概そういう素敵な男性の目的は“パートナーへのプレゼント選び”と決まっている。
「こんにちは。何かお探しですか?」
「まーそうだね…プレゼントを…何かオススメってある?」
やっぱり“プレゼント”…彼には決まったお相手がいるようで…内心溜め息を吐いた。
「でしたらコチラとか…今週発売されたばかりの期間限定品で……」
気を取り直して、3点ほどプレゼントに差し支えなさそうなものをピックアップしていった。でも彼は商品にはあまり興味が無さそう……
「ふーん…さん?」
「はい?」
「下の名前は?」
「です」
「ちゃん…ちゃんだったらどれをもらったら一番嬉しい?」
少し悩んで、最近の一番のヒット商品、高級リップクリームを推すことにした。
「私は…コレですかね。ほんのり良い香りで…付ける度に癒やされるし…毎日使えますしね。自分じゃこんな値段のリップクリームは中々買えませんけど、もらったらすっごく嬉しいと思います!」
「うん、じゃあ付けてみてよ」
「私が…ですか?」
「うん。実際にちゃんが付けてる所を見て、決めたいから」