Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第5章 怪盗と夜のお散歩【キッド/快斗】
ほぼ真っ暗な屋上を、快斗くんに手を引かれながら端の方まで歩く。
「わー!すごい・・・綺麗・・・」
「たしかにココからの眺めも悪くないな」
高層ビルの屋上から見る夜景は中々のものだ。
手を離し、その場に呆然と立ち尽くす。
真下を見ると足が竦むけど・・・
風に吹かれながら、しばらく無心で遠くの灯りの群れを眺めていた。
「ちゃん。行こっか、こっち来て」
「あ・・・」
後ろを振り返ると、暗がりでもよく分かる。白い衣装に身を包んだ快斗くん・・・というかキッドが立っていた。
この姿を見るのはちょっと久しぶりである。
「・・・早くしねーと置いてくぜ」
「あ、うん・・・」
彼に近寄ると、後ろを向かされ何やら腰から下を器具で固定されて。
背中が彼とぴったりくっついた。
「一緒に端まで歩けるか?無理なら抱っこしてやってもいーけど」
「歩けるって・・・っ、わっ!」
足元を固定されているので、思ったよりとても歩き辛い。
すぐ後ろで笑っている快斗くんが憎い。
なんとか端まで来たはいいが、今度は恐怖心が胸を支配し始める。
ビュウビュウ吹く風の音が、さっきより大きく聞こえる気がする。
つま先のすぐ先はもう何も無い。落ちたら即死確実だろう。
そしてそれは一体どこにしまってあったのか。
後ろでバサッと大きな音がして、彼の翼が開いた。
いよいよか。
「・・・待ってね、まだ、飛ばないでね・・・」
「怖い?」
「ちょっと・・・怖い」
「ぜってー落とさねぇし、楽にしてろよ。ビビってたらせっかくの夜景が台無しだぜー?」
彼が後ろから腕を回して、ふわりと抱きしめてくれて。
少しは落ち着けたかもしれない。
「行くぞ?」
「うん」
身体をひょいと持ち上げられ、そのまま体勢が前方に倒れて、次の瞬間には空を飛んでいた。
本当に飛んでる。
でも、身体は強ばってるし、景色どころじゃない。
「気分はどーだ?」
「・・・不思議、な気分」
「そっか。まー、暴れんなよ?バランス崩れるから」
「うん」
しかししばらく飛んでいる内に徐々に慣れてきて、だいぶ身体から変な力も抜けた。
それにしても眼下に広がるこの景色はすごい。
東京の街が、キラッキラの模型になったみたいだ。