Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第36章 溢れた水は杯に返るのか【沖矢昴】
目が覚めると、おそらく早朝、薄暗い部屋の中だった。すぐに自分の部屋ではない事に気付き、次の瞬間には昨夜の昴とのことが一気に思い出された。
ハッとして周りを見れば、すぐ隣に、昴が寝ている。
……夢じゃなかったみたいだ。
身体を昴の方に向け、間近で昴の顔を見てみる…そうそう、こんな寝顔だった。嬉しさの余り思わず抱き着いて、彼の胸元に擦り寄った。あったかい。昴の匂いがする。
「………」
「ごめん、起こした…」
「……どうやら、夢では…なかったようだな……」
「…だね」
背中に腕が回ってきて、ぎゅうっと抱き寄せられる。
喉がカラッカラに乾いてる、トイレにも行きたいしシャワーもしたい……だけどしばらくは、このままでいたい……
髪に口付けられて、ゆっくり顔を上げれば唇同士が重なる。
こんなに幸せな目覚めはいつぶりなんだろう。
ひとしきり抱擁を堪能して。昴が起き上がったのにつられて私も身体を起こす。
「イタッ…!?…いたたた……」
「どうかしたか」
「あの……腰が…痛くて……やだもう……」
「それは悪かったな」
ひとつも悪くなさそうに笑う昴は、私がベッドから立ち上がるのを手伝ってくれる。なんて情けない……
「……昴がすごすぎたんだって……どこであんなの覚えてきたの……」
「…“あんなの”とは?」
「なんて言うの?意地悪度が増したっていうか…Sっ気が増したというか……」
「嫌だったか?……違うな」
「そ、それは…まあ……」
「僕はにフラれた身だろう?あの後自分なりに色々考えたんだ…自分の悪い所は何処だったのか。僕のセックスがよくなかったんじゃないか、とも思ってね、少々知恵をつけた訳だ」
「へ、へぇ……?」
「別に他の女は抱いていないぞ」
「……うん」
「しかし昨日のは過去にない乱れ様だったな…」
早朝に似つかわしくない妖しい笑みを口元に浮かべる昴。昨夜の事を思い出してまた身体の芯が熱くなってきそう……
カーテンを開けると空は灰色、シトシトと小雨が降っていた。
珍しくこんなことを思う……今日が雨で良かった。
END
→次ページは〈おまけのページ〉です。