Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第36章 溢れた水は杯に返るのか【沖矢昴】
すっごく見覚えのあるエレベーターに昴と乗る……だけど押された階数ボタンは…記憶よりも上の階。
エレベーターから降り、また昔の記憶よりも沢山歩いて、昴が鍵を開けたのは一番奥の部屋のドアだった。こっちは…陽が沈む方、東の方角。
「わー…上の階の東の角じゃん。いいって言ってたよね」
「覚えてるのか……」
「そりゃあ私だって覚えてるよ、色々……」
“ココの立地は最高だが…もっと上の階の、東の角なら更に良いな”って。絶対言ってた。
部屋に入れば、作りは若干違うものの、見覚えのある感じ。それに見覚えのある家具もあるし……それに、この匂い。
「…昴の部屋の匂いがするー……人間って匂いまで覚えてるもんなんだね…」
「匂い…自分には分からないな…」
「あ、クサい訳じゃないよ、好きな匂いだよ」
「……」
「す、ばる…っ」
前触れもなく急にギューッと抱き締められて、視界は昴のシャツとボタンだけになる……
「スーツ汚れるよ…」
「で汚れるなら構わない…」
「ちょっと…!」
頭を抱えられ、更に強く抱き締められる…絶対メイク付いてるし、崩れるし……!
「くるしい…」
「すまない……でもそうだな……の匂いも…同じだ…」
「……昴も変わってない」
息も胸も苦しい。でもこの匂いもよく覚えてる。懐かしい昴の匂いが身体いっぱいに入ってくる。
……多分、ずっとこうしてもらいたかったんだろう。すごく嬉しい気持ちで心が満たされてくる。
昴の背中に腕を回して、自分からも擦り寄った。
頭の後ろを優しく撫でてもらうのが気持ちいい。
耳を指先でくすぐられて、首すじを撫でられればゾクゾクして。
何も言われてないし、言ってもないけど、自然と顔が上を向いて次の瞬間には当然のように昴と唇が触れ合っていた。
迷いもなく角度を変えては、再び重なって。
私の身体は昴とのキスの仕方まで覚えてるんだろうか。びっくりだ…