Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第36章 溢れた水は杯に返るのか【沖矢昴】
深呼吸して胸のドキドキを抑え、顧客に電話を入れる。是非を伺えば、明日のゴルフも会食もやはり中止になり。そのまま上司にも中止になった旨を伝えて、全ての予約をキャンセルし。
再び店内に戻れば、若い女の子達が昴を取り囲んでいた……相変わらずおモテになるようで何よりだ……
ジトっと昴を睨みながら(爽やかな笑顔を振り撒き女の子の相手してるのがまたムカつく)……隣に腰掛けた。
その瞬間、サーッと離れていく女の子達。
「…ほんっとに……また“一緒にダーツしませんー?(裏声)”とか言われてたの?」
「別に好きで誘われている訳じゃない……怒ったを見れるのは愉しいがな」
「別に怒ってない…」
「まあそれでだ……明日のゴルフは中止だろう?」
「そうなったね」
「じゃあ、この後家に来ないか…?」
「……いいけど…」
「今まで離れていた分…たっぷり愛させてくれ」
「……っ!!」
こっ恥ずかしいセリフを耳元で囁かれ、椅子から転げ落ちるかと思った。
“明日の予定は?”と聞かれた瞬間から、もしやこの後も…?って気はしてた……
けど復縁直後にいきなり家ってどうなのだ……別に初めて夜を共にする相手ではないけど……
いや、その前にそういうことすると決まった訳でもないけど……
正直な所、身体の芯が熱くなってきている気がする……だって、昴とのセックスって……すごく、すごく…よかった覚えしかないんだから……
店を出てタクシーを拾い、乗り込む。数年ぶりなのになんとも自然な流れで私が奥、昴が手前。
昴が座ってすぐ、運転手に告げた彼の自宅の住所は…以前住んでた所と同じ町名で。なんだか時が戻ったみたいな気さえしてくる。
まさかこれって昔にタイムスリップなんて…してないよな。
でも…車が走り出してしばらく。突然昴に左手を取られ、指が絡め取られた。
タクシーの中でこんなことされた記憶は全くないから…やっぱりこれは現実か。
窓の遠くに…去年だったか、建て替わったビルも見えるし、これは間違いなく現在だ。
そして見覚えのある景色、見覚えのあるマンションの前でタクシーは停まった。ここは以前昴が住んでいた所だ。
「…ココ?今もココに住んでるの?」
「ああ。この辺は何かと便利だからな。昔と部屋は変わったが」
「へえ…」