Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第36章 溢れた水は杯に返るのか【沖矢昴】
場所をそのブルーパロットに移せば、当時の記憶が次々に蘇ってくる……
当時まだ付き合い立てだった昴のビリヤードの教え方がどうにもエロすぎて動揺を抑えるのが大変だったこととか。(キューを構える私のすぐ後ろにピッタリついて、耳元でアドバイスを囁いてくるのだ…)
ダーツの上手い昴に群がってきた知らない女の子達にイライラしたこともあった。
調子に乗ってテキーラ飲みすぎてフラフラになって昴に迷惑かけたこともあったな…
今夜の店内は、あの頃の私達くらいの年齢の男女でワイワイ賑わってて。
もうワイワイ騒ぐ年齢でもない私達は、とりあえずカウンターの端に座って、お酒と会話を楽しむことにした。
「…はあれからどうだった?恋人はできたのか」
「あー……一瞬、付き合ってもいいかも?って人はいたんだけどね、告白されて。でも仕事忙しくて告白の返事忘れててさ。結局何も無し」
「らしいな……今もそういう相手はいないのか」
「だからいないって。昴は?」
「ずっといなかったな」
「嘘!?向こうでも九州美人に沢山言い寄られてたんじゃないのー?」
「まあ、それは否定しないが……恋人にしたいと思える相手はいなかった」
「ふーん…」
やっぱり昴はモテるのだ……彼女はいないと聞いて安心してる自分がいるのもたしかだけど、その彼に彼女がずっといないのも不思議だ。
っていうか、なんで私なんかと付き合ってたのか、今となっては疑問でしかない。
しかし彼と喋ってると、落ち着くっていうか…安心するというか……どうやら私は今も変わらずこの人が“好き”なようだ……
そもそも、彼を嫌いになって別れた訳じゃないし、嫌いだと思ったことは一度もない。
再会して小一時間経つけど、世界中で一番居心地の良い場所は、やっぱり昴の隣なのかもしれないとすら思う。それってやっぱり“好き”ってことなのか。
じゃあ何故別れた?って…とにかくあの時の私には、余裕が無さすぎたのだ。
……今ならどうだろう。私は今の仕事にも慣れたし、昴は東京に戻ってきた。
もし、やり直せたら……今度はもっと上手くいくんだろうか……
って、そんなムシのいい話……自分でフッた相手と復縁したいだなんて…自分勝手が過ぎるか。