Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第36章 溢れた水は杯に返るのか【沖矢昴】
しばらく会話のやり取りが途切れることなく続く。そりゃあ、知り合った当初から会話のテンポが合う相手だったし(だから付き合ってたんだし)…当然か。
この優しい穏やかな声のトーンが大好きだった…なんてことをふと思い出してしまったけど、それは言わないでおく。
「はどうなんだ…新しい仕事には慣れたか?今も営業なのか」
「うん、さすがに慣れたよ、良かったり悪かったりの繰り返しだけど」
「……今日はあまり出来が良くなかったんだろう?この店にいたんだから」
「あはは…その通り……」
「昔からの調子の良くない日の夕飯はココと決まっているからな…」
「よく覚えてるね…」
「大体の事は覚えている。だからココに居れば弱ってるが来るかもしれないと思って」
「…え」
「実は先月から何度か来ていたんだ」
この店には昴とも何度か来たことはあるけれど…たしかに来る度、仕事の失敗だったり愚痴だったりを聞いてもらってたけれど。
「何……会いたかったの?しかも弱ってる私に?」
「ああ。弱っているときの方が付け入る隙も多いだろう?」
「性格悪…」
「冗談だ。心配だったんだ、が上手くやれてるか」
「そっか…ありがと…」
しかしずっと店の前に突っ立ったまま喋っているのもいかがなものか……
昴も同じだったようで。場所を移そう、と提案され。特に断る理由も見つからないし、了承した。
「どこ行く?」
「…あの店はまだあるか?」
「どの店……?あ、ブルーパロット?」
「そうだ」
「あるある。もうずっと行ってないけどねー…」
ここから割と近い所にあるバーだ。ビリヤードとかダーツも出来るプールバー。昔は昴とも友達ともよく行ってた。
(ちなみに昴はビリヤードもダーツもすっごく上手くて……あの店に行ったら絶対に彼を思い出すに決まってるから、ここ数年はわざと避けていた)