Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第35章 ヒミツの約束【快斗/キッド】
「私がその彼そっくりに変装することは勿論可能です……でも貴女は本当にそれでいいんですか?」
「……え?」
「出来るなら、偽物の私とではなく、彼本人と親密になりたいのでは?」
「…だから、それが無理なの…」
「それはまた何故…」
「きっと見たら分かるよ…すごく素敵な人だから。私なんかじゃ到底釣り合わないの…」
「…そういう事情でしたら……彼本人と貴女が結ばれるよう、この怪盗が手を回して差し上げましょう」
私と快斗さん本人が……?
いくらあの怪盗キッドでも、そんなこと出来る訳ない。魔法使いじゃあるまいし。それってこの場から逃れる為の嘘じゃないのか。
「ほんとにそんなことできるの?」
「怪盗キッドに不可能はありません。まあでも…貴女なら、私が手を貸さずとも、既に彼にとって充分魅力的だと思いますがね…」
「ちょ…ちょっと!?」
キッドにあごを持ち上げられ、私の顔は斜め上を向く。これって…マンガによくある、今からキスでもするのかって雰囲気だ。胸が変に騒ぎ出す。
「貴女はそのままでも充分、可愛らしいですから」
「は…っ!?」
「それでは私はそろそろ失礼します。しっかりと願いは叶えますよ!貴女もくれぐれも約束をお忘れなく」
「へっ!…ちょっと!」
まくし立てるようにキッドが喋った次の瞬間には、彼の姿は目の前から消えていて。
しばらく私はその場から動けなかった。
不覚にも泥棒相手にドキッとしかけてしまった自分を今すぐ戒めたい。
でもキッドは…人の心を操るようなことまで出来るんだろうか。っていうか操られてる快斗さんと仲良くなれたって、それってかなり微妙だ。
いやでも…快斗さんに変装したキッドとアレコレするよりは、遥かにいいのかな……複雑。
家に戻ってテレビを見ていれば、そのうち美術館上空にキッドが現れた、との一報が流れ……
中継画面に映し出されるその姿は、さっき見た人物と、全く同じで……
そして、キッドが今回も鮮やかに宝石を盗み出したのを見届けて……初めて彼の成功を喜んだ。
だって捕まってしまったら、約束を果たしてもらえないから……