Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第35章 ヒミツの約束【快斗/キッド】
「か、かか、かい…」
「怪盗キッドですよ、お嬢さん」
「本物…?ど、どうしよ…けいさつ……あ、電話…ない……」
スマホは家だ。それならと、声を上げて近所の人を呼ぶべく大きく息を吸いこんだ瞬間、口元は手袋を着けたキッドの手のひらに覆われてしまった。
「大声はお控え願いたい」
「んんーーーっ!」
鼻から出来る限りの声を出し、キッドの腕を強く掴む。だけども彼はビクともしない……
「中々強情なお嬢さんだ。あまり女性に手荒な真似はしたくないんですが……大人しくしてもらえないなら、私も手段を選びませんよ」
カチャリと金属音がして、銃のようなものを額に突き付けられたのだと分かり……私は仕方なく観念した。
口を覆う手は離されたけど、銃の先はこちらに向けられたまま、キッドと向かい合い対峙する。
帽子を深く被ってるせいで、彼の顔は口元しか見えない。
「今夜私がココに身を潜めていたことは、決して誰にも話さないで頂きたい」
「…無理です」
「ではこうしましょうか……秘密にしてもらう代わりに、この怪盗が貴女の願いを何でも叶えます」
「願い…?何でも…?」
「ええ。例えば、テストで良い点を取りたいだとか、好きな異性に近付きたいとか…」
「っあ…だったら……」
フッと思い浮かんだひとつの願い。
こんなこと頼むなんて、馬鹿げてるけど……
「何なりとどうぞ?」
「わ、私…好きな人がいるんだけど……その人とは絶対付き合えないって分かってるから……キッドって変装得意なんでしょ?その人に変装してくれない?」
「…お安い御用です。それで?変装した私はどうすれば」
「えっと……私…男の人と付き合ったこともないから……その…デートとか、色々…してみたい……」
「……いいでしょう」
「ほんと!それなら、黙っててあげてもいいかな…」
「ええ、お願いしますよ。ちなみにどんな相手なんです?貴女に思われているその彼は……変装には下調べが必要ですのでまずは彼のお名前を頂戴したい」
「…江古田高校の2年生で……黒羽快斗さんっていうの……」
「なーるほど……」
何か考え込むように黙ったキッドの口元を見つめる……彼は変装の天才らしいけど、本当にその人そっくりになんてなれるんだろうか。