Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第35章 ヒミツの約束【快斗/キッド】
4月も後半になってきた頃。いつもは恋の話で持ち切りの休み時間も、その日は朝から全く別の話題で盛り上がってばかりだった。
“怪盗キッドが予告状を出した”のだ。
キッドと言えば、子供ですらもその名を知る超有名な怪盗。数多もの顔と声を持つ変装の名手とも言われ、毎度白いタキシードで現れては華麗に宝石を盗み出すその姿にはファンもいる程。
その怪盗が私達の学校からも近い某美術館に盗みに入ると、予告状を送り付けてきたんだと。
「会ってみたいよねー!」「絶対カッコイイよね!」「私も盗まれたーい!」なんて友人達は口々に言うけど……実は私はそんなに興味がなかった。その場は適当に話を合わせてたけど。
だって、泥棒だよ?悪い奴に決まってる。
ただ、あんまり皆が楽しそうに騒ぐから…予告日が近づくにつれて少し気になってきたのも事実。
幸か不幸か私の家は予告を出された美術館を見下ろせる高台に位置しており。
いよいよ予告当日の夜になり、ひとり自室の部屋から窓の外を眺めていた。
いつもは暗い筈の美術館の周りがやたら明るくて、人だかりができてるように見える。
とは言え距離はある。肉眼では人も米粒に見えるほど遠い。やっぱりテレビで見た方がよく見えそうだ。カーテンを閉めてテレビを見ようとしたその時、窓の外を黒っぽい大きな何かが右から左へ横切ったのが見えた。
まさか…キッド……!?いや、白くなかったけど……でも……
「コンビニ行ってくる!」と家族に嘘をつき、私は家を飛び出した。
大きな物体が飛んでいった方へ向かい目を凝らせば……隣の隣の家の屋根の上に、暗闇に溶け込むような黒っぽい布を被った人型を見つけてしまった……
「か、かか…かいとう…キッド……?」
思わず声に出てしまった。それに気付かれたか、黒い人型は布を翻しその家の奥へ消えていく……
無心でその影を追いかけ、家の裏へ回る。そこはあまり街灯もない、暗い路地だ。
でも……見失ってしまったようだ……そりゃそうだ、警察が捕まえられない泥棒に私が追いつける訳がない。
肩を落とし、やっぱり家に帰ろうと身体の向きをくるりと変えた瞬間……息が止まるかと思った。
白いハットに白いタキシード、白いマントを風になびかせた……まさに怪盗キッドと思しき人が私の真後ろに立っていたのだ。