Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第34章 蜜月旅行のその後は【赤井秀一】
桜並木の桜が少しずつ開花し始め、日を追うごとにあっという間に花は広がり、一気に満開近くになった。
今日は秀一さんはお休み。二人で歩いて桜の所までやって来た。
屋台が立ち並び、沢山の人で賑わう桜並木……とは言え、ここはワシントン、日本のお花見とは全く違う光景。
レジャーシートに座り込み宴会してる人なんていなくて、何かのイベントやお祭りのような雰囲気だ。
「きれーい……でもなんか変な感じ!アメリカなのに日本っていうか…」
「まあ…ホワイトハウスよりも城の方が桜の背景には似合うな……」
「でもこれはこれでいいです!写真撮ろーっと……」
「スリに気を付けろよ、この人混みだ」
「そうですね…」
みんなが笑顔で景色を眺めてる中、秀一さんだけは一人怖い顔して行き交う人達を睨み出した。
これじゃ何しに来たんだか分からない……彼らしいけれども。
桜を見てると日本でのことを色々思い出す。
ふと、桜の紋章をシンボルマークとする組織にいる彼の顔が脳裏に過ぎる……元気にしてるだろうか。
けど、きっと元気にしてるだろう、と思考は完結させた。
散った花びらが風に乗って、ひらひらと地面に落ちていく。
やっと咲いたばかりなのに……いや、咲いてもすぐに散ってしまうから、余計に綺麗に見えるのかもしれないけど。
花に限らず人の命だって、いつかはなくなってしまう。
だけど花も人間も、次の生命を作ることができる。
わたしの身体の中に新しい命は宿っているんだろうか。
女の子だったら“さくら”って名前も可愛いな…でも今出来てたとしてもその子が産まれるのは……冬だ。
「何を考えている?…難しい顔をして」
「え?ああ…女の子が産まれたら“さくら”って名前もいいなーって。でももし今デキてても産まれてくるのは冬だから似合わないかなーって…」
「名前か…そうだな……女が産まれたらが名付けろ。男だったら俺が付ける」
「いいけど?」
「男か女かはいつ分かる?」
「まだまだ先ですよー!5ヶ月とか6ヶ月とか、だったかな」
「待ち遠しいものだな……」
桜を見上げた彼の顔付きはとても穏やかだ。さっきの怖い顔の彼とはまるで別人のよう。
最近、秀一さんは優しい顔をしてることが増えた。
昔、真純ちゃんの話をしてた時も、こんな表情だった気がする。