Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第34章 蜜月旅行のその後は【赤井秀一】
なんとなく気持ちがそわそわしたまま眠って起きて翌日。また日常が始まった。
わたしの倍近く、たっぷり寝た秀一さんは、朝食を食べると仕事へ。
いつも玄関先でキスして出ていくのは常だけど、今朝は私のお腹を擦りながら時間を掛けてキスされて…なんだか照れくさかった。まだ子供が出来たとも決まってないのに。
そう、まだ何も確定してない。だけどわたしも、これから生物(なまもの)やカフェインの摂取は控えようと思ってるし、天気のいい日は毎日軽い散歩もするつもりだ。
部屋の掃除をちゃちゃっと済ませ、早速家から徒歩十分程の所にある開花間近の桜並木の下まで歩いてきた。(ワシントンにも桜はあるのだ)
ピンクに色付き膨らんだつぼみを見上げながら、近くのベンチに腰掛ける。
コーヒーもだけど、今年のお花見はお酒も無しだ。少し寂しいけど……全ては産まれてくるかもしれない命の為……
……日差しが暖かくて気持ちいい。目を閉じればなんとなく感じる春の匂い。
ゆっくりと、わたしの前をベビーカーを押した女性が通り過ぎる。少し前までだったらきっと何も感じなかっただろうけど、今は……
もしかしたら一年後の自分も、あの人のようにここを歩いてるのかもしれない……そんな情景が頭に広がった。
しばらく桜の下でのんびり過ごし、スーパーで買い物をして家に帰り、一人で昼食、それからまた妊娠についての情報をネットで読み漁り、いつの間にかソファでうたた寝……
目が覚めたらもう夕方で、急いで夕食の準備に取り掛かりながら、秀一さんの帰りを待った。
ぼちぼち料理も出来上がってきた頃、玄関の扉が開く音がして。足音は真っ直ぐキッチンへ向かって来た。秀一さんのお帰りだ。
「おかえりなさーい!」
「ああ…どうだった、今日は…」
「どうって…普通…?」
「ならいいが……、妊婦は電子レンジは使わん方がいいそうだぞ」
「電磁波…?だったら、大丈夫らしいですよ」
「そうなのか?」
「レンジもIHもスマホも、身体に影響出る程電磁波は強くないらしいです」
「勉強したのか」
「はい。まだ妊娠したとも決まってないのにねー」
「だが“していない”とも言い切れんだろう…いつ分かるんだ」
「再来週…くらい…?」
「再来週か…」
どこか嬉しそうに見える秀一さんを見てると、わたしも嬉しい。