Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第1章 月夜に現れた紳士は【キッド/快斗】
キッドが頭を上げて、手が離れた次の瞬間、ポンっと彼の手からバラの花が一輪出てきて、それを渡される。
「成功した暁には、貴女を頂きに参ります・・・」
驚いてその場で呆然としていると、キッドはベランダへ出て、颯爽と飛び立っていく。
わたしがベランダに出て辺りを見渡す頃には、もうかなり遠くをキッドは飛んでいた。
しんと静まり返り、一人きりになった部屋。
バラは造花のようなので、とりあえずテーブルの上に置いて、またベッドに入る。
さっきまであんなに寝付けなかったのに、今度はスっと眠りに落ちていった。
翌日。
とりあえず早起きできた。
数秒後、キッドが昨夜ここにいたことを思い出す。
あれは夢だったんじゃないかとも思ったが、テーブルの上のバラが、事実であったことを証明している。
昼のワイドショーとネットニュースは、キッドの予告状の話題で持ちきりだった。
丁度ここのベランダから見降ろせる場所にある、某美術館に展示される宝石を頂く、という内容の予告状が送り付けられたと。
久しぶりに実家に帰り、夕方になると母も仕事を終え帰宅してきて、そのうち父も帰ってきて、夕食だ。
三人で食卓を囲むのは、もっと久しぶりだ。
「ねえ、今度キッドが予告出した美術館って、のマンションの近くよね?」
唐突にそう母に聞かれ、思わず食べていたものを吹き出しそうになった。
「・・・っ、うん、ベランダから見えるよ」
「二課の奴らはバタバタしてたな・・・次こそは引っ捕らえてくれんと・・・また警察の恥だ」
警視庁に身を置く父は、キッド=犯罪者だと思っている訳で。
昨夜のことは口が裂けても言わないつもりだが、心は痛む。
ちなみに母は教師であり、キッドを悪く言うこともない。
そして、私の目指している職業も、母と同じ教師であり。
今回実家に帰ってきたのは、明日から母校の江古田高校で教育実習を受ける為だ。
母や同じ実習を受けた先輩達によれば、実習中は鬼のように生活が忙しくなるそうで。
実家なら高校からも近いし、家事もしなくていいし、何かと楽だろう、ということで帰ってきたのだ。
「〇〇先生と□□先生によろしくねー」と母に言われた名前を忘れないように頭の中に書き留める。