Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第1章 月夜に現れた紳士は【キッド/快斗】
何か温かい飲み物を、と思ったがこの暗がりの中でお湯を沸かすのもいかがなものか。
キッチンの方は更に暗い。
「お構いなく、お嬢さん。温かい部屋の中で休ませてもらえるだけで充分です」
「は、はい・・・」
お茶を出そうと考えてたのを読まれたか。鋭い。
「こちらにはお一人で住まわれていらっしゃるんですか?」
「はい」
「それは好都合・・・いや、実を言うと・・・この建物が次の獲物を狙う際に絶好の位置取りでしてね・・・」
「あの・・・次は何を狙ってるんですか?」
「それはまだ秘密です・・・明日獲物の持ち主へ予告状を出しますから。楽しみにしていてください」
「予告状!いつもニュースで見てるやつだ」
「そう。貴女さえよければ、こちらのベランダをその当日にお借りしたいんですが・・・勿論警察には内密で」
「・・・いいけど、いつ?」
「次の土曜の夜に」
「そっか・・・お好きにどうぞ。私、明日からしばらく実家帰るからここにはいないけど」
「おや、それは残念です・・・」
「わたしだって見たかったです・・・キッドさんがここから飛び立ってくとこ」
「飛び立つ所ならいくらでもお見せしますよ、何なら今度私と一緒に飛んでみますか?」
「いいの?」
「ええ。もう少し暖かくなったら。今夜は少し冷えます。貴女に風邪をひかせる訳にはいきませんので」
「また会える・・・の?」
「ベランダをお借りするお礼に、夜の空中散歩にお連れします」
「ほんとー!楽しそう!」
あれ・・・でもよく考えると、これって私、犯罪に加担することになる。
でもキッドの邪魔をするつもりはサラサラ無い。
父が知ったら激怒しそうだけど・・・
しかし顔は暗くてよく見えないけど、キッドと思しきこの男性は口調や仕草がとにかくキザだ。
これイケメンじゃなかったら気持ち悪いよ。きっと。
「せっかく素敵なお嬢さんと知り合えて・・・もっと貴女のことも知りたいのですが・・・今夜はあまり長居できないので・・・これで失礼します」
「はい・・・あの、土曜日、応援してます!」
「ええ。必ず成功させてみせますよ。では、また月の綺麗な夜に・・・」
その場に片膝をついたキッドが、わたしの手を取り、甲にキスをする。
こんなことされるの、初めてだ。