Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第32章 POP HIS CHERRY【降谷零の場合】
「今になってすっごく恥ずかしくなってきちゃったの……こんなの久しぶりで…どうしたらいいか分からなくなってきた……」
耳元に届いた震える小さな声。
不意に間近で見つめ合った途端、更に頬を赤くして顔を背けたがあまりにも可愛すぎて、ここが外なのも忘れてその身体を抱き締めようと腕が反応しかける……抑えたけど。
は僕が彼女を誘いやすいように、わざとこんなに可愛いことを言ってくれてるんだろうか。
だが“フリ”で頬の色まで変えられるか?酒のせいか?もしくはコッソリ呼吸を止めていたのか。
彼女はもう少し酔いたいと言ったが……僕は……早くとここを出たい。
しかし早々に連れ出していいものなのか、あと一杯くらいは待つべきなのか……
こういうことを瞬時に判断できないのも、僕の経験の浅さのせいなんだろう。
「……もう少し酔いたいなら早く酔ってくれ。僕は早くと二人になりたい…」
「…!れ、いくん……」
また耳元に声を落とせば、彼女は目を大きく見開き、こちらを見ながら瞬きをパチパチと繰り返す。
「それ、全部飲んじゃえよ。で、次は何にする?」
「え、えーっと…」
「が決められないなら僕が決めるからな」
「っ、待ってよー!」
細い脚の付いたグラスが持ち上がり、斜めに傾けられ、一気に酒はの口の中へ……
ゴクリ、と細い喉が動いたのを見届けて、僕も自分のグラスの中身を空にした。
自分は先程のと同じものを、は店のメニューに一際目立つように書かれていた“名物”らしいカクテルを頼んだ。
たまにと会話しながらも、頭の中のほとんどはこの後のことばかりが占めていた。
昼間いた公園からすき焼き店、すき焼き店からこのバーに来る間にも、ホテルは何件もあった。安価なビジネスホテルから、そこそこ良さそうな所、ハイクラスなものまで様々……
何処にしたってこの後を断られることは絶対ないのに、どこへ連れて行こうか迷う、おかしな話だ。
単純に、ここから近い所でいいのか。
徐々に減ってきたグラスの中身を見つめるがポツリと呟いたのを僕は聞き逃さなかった。
「ふぅ……ぼちぼち酔ってきた…」
「じゃあ、行くか?」
「……うん」