Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第32章 POP HIS CHERRY【降谷零の場合】
ずっと飲みたかったお酒が飲めて、一人舞い上がり、すっかり気が緩んでしまってた。零くんに指摘されるまで役が抜けていることに全く気付かなかった。
気を引き締め、役を取り戻そうと思ったものの…
「いいよ、もう。そのままでもは魅力的だから。夜も一緒に過ごしたいと思えるよ」
「この後僕達がそういうことをするんなら、いつものとの方がいい」
つまり、役作りは要らないと言われてしまった。
“魅力的”だとか“夜を一緒に過ごしたい”だなんていう甘いセリフは、この後をスムーズに進める為の前置きなんだろうけど……どうしよう、やたらドキドキしてきた。
それに……この思い出のお酒を見ていると、あの時もそうだったみたいに…身体の中心が熱くなってくる。
覚悟は決めてたはずなのに…なんでもやってやる!ってつもりだったのに……いざその段階が近付いてきたと思うと……
チラリと隣に視線を送る。零くんはカウンターに肘をついてて、指先はグラスに添えられている。その綺麗な指が僅かに動くと、変な妄想で頭が埋め尽くされそうになる……
視線を正面に戻して、グラスの中で気泡が立ち上るのをジッと見つめる。
「どうする…?これ飲んだら行くか?」
「……待って…もうちょっと酔いたい…」
「…まさか今になって怖気付いてるのか?」
「いや、その……」
「昼間はあんなにヤル気だったのに」
「だって…こんな………っ、なんでもない…」
「なんだよ…」
「…なんでもない」
こんなにドキドキするなんて想定外だったからだ。こんなの、まるで私が零くんのこと好きみたいだ……
零くんが頭を寄せてきて、私の耳元で囁く。
「がどうしても嫌なら、今夜は何もしない。まだあと2日もあるんだ」
「あの、嫌とかじゃないから…大丈夫……ただ…」
「……ただ?」
私も零くんに頭を近付けて、彼の耳元でごく小さく声を発する。
「今になってすっごく恥ずかしくなってきちゃったの……こんなの久しぶりで…どうしたらいいか分からなくなってきた……」
彼の顔がこっちを向いたもんだから、一瞬もの凄い近い距離で見つめ合ってしまい。自分の顔に熱が集まってくるのを感じて咄嗟に顔ごと目を逸らした……
自分の両頬に手を重ねると……ああ、やっぱり熱い。