Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第32章 POP HIS CHERRY【降谷零の場合】
久しぶりに会ったからか、零くんとの会話はほぼ途切れることなく続いた。
今は私も零くんも仕事で手一杯で、同期の皆とは全然会えてないこととか、警察学校時代の馬鹿みたいな思い出話に…それぞれの部署のこととか……
こんなに彼と喋ったのは初めてに近いと思う。
退屈することなく時間は過ぎ……
どこからか夕方を知らせるチャイムの音が鳴るのが聞こえてきて、もう5時なのだと気付いた。
「行くか…」
「うん…っ」
二人して腰を上げ、大きく伸びをして。
公園を出てしばらく歩き、辿り着いた風情ある佇まいの老舗店。入り口の暖簾を前に、一度立ち止まる。
「ここからは、また記者と、秘書だからな」
「存じております」
彼は、彼自身と、次に私を指差して言う。私も軽く顎を引いて応えた。
再び顔付きが鋭くなった零くんと暖簾をくぐり、店の中に入った。
今回みたいな臨時収入でもなければ、余程のことでもない限りこんなお高い店で食事する機会はなかっただろう。せっかくだから料理も楽しみたい…
通された個室は、畳敷きの座敷に低い木製のテーブルと座椅子がある部屋だった。窓からは中庭が見える。
上座の椅子を彼が引いてくれたから、自然と私がそっちに座る形になり。向かい側の椅子に彼も着席して、お品書きを眺める……
「さんお酒は?」
「降谷さんはいかがなされるんです?」
「僕は好きなので飲みますが…貴女みたいな綺麗な女性と一緒に飲めたら更に美味しくなるんでしょうね…」
「…頂きましょうか」
お酒と、この店の名物料理であるすき焼き、それから簡単な冷菜を頼んだ。
鍋の準備が整えられると、女性店員が丁寧にお肉に火を通していってくれる。「後は自分達でやるからいい」と断って、ようやく部屋に二人きりとなった。
「私、この店は初めてですが…美味しいですね」
「普段先生方と高級料亭ばかり行かれてるんじゃないんですか?これくらいのお店じゃないと貴女には満足してもらえないだろうと思ってコチラにしたんですが」
「たしかに先生とご一緒することもありますが…立場上私にはゆっくり食事を楽しむ暇はありませんから」
「へえ…秘書さんは先生のお食事中も大変な訳だ」
何かを探るように(そういう演技なんだろうけど)こっちを見てくる零くん…中々に妖しい男っぽさが出てる。悪くない。