Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第29章 寄せは俗手で【羽田秀吉】
生ビールで乾杯して。毎度の事だけどやっぱり将棋の話ばかりをしながらとりあえずお造りを食べ進める。
話題は今回の最終局の秀吉の“決め手”と言える一手について。
「あの時の角があそこで効いてくるなんてね!ちょっとゾクッとしたよ!全然気付かなかった!」
「に気付かれるような手じゃ竜王にはなれないよ」
「…そりゃ、私は大した腕前でもないけどさ……、ん」
「まあ…腕が無いとは言わないけど、は考えてることが分かりやす過ぎるのが問題だね。今だって…ワサビ付け過ぎて辛いの我慢してるだろ」
「……っ!」
その通り、私はたった今ワサビの辛さにコッソリ悶絶していた。図星すぎて何も言い返せない。なんで分かるんだろう。若干の涙と悔しさを滲ませながら無言で目の前の彼を睨みつける。
「全部顔っていうか雰囲気に出てるんだよ。将棋の時も一緒。ああ…はこの手で来るつもりだな、ってスグ分かる」
得意気な顔で笑う三冠王様…彼は人の考えを読む天才なんだろう。将棋が強いのも然り、何十手も先の事を考えながら打てる人が強いんだから……
「でも、それがの良い所じゃん。僕は好きだよ。棋士としてはそれは大きな欠点になるけどね」
「褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちなのー……」
「うーん、半分半分かな」
秀吉と二人で喋ってたって、話題が恋愛の話に自然に流れることなんて明日になっても無さそうだ。
お酒が進むにつれてどんどんヤキモキが増してきて……
ついに私は自分から切り込んだ。
「今日聞かれたよ?事務局の課長に。“太閤名人には恋人は本当にいないのか”って。テレビでも聞かれてたじゃん、クリスマスはどうするんだーとか……秀吉、最近どうなの?」
「…まずそんな相手がいるんなら、達も知ってるハズだと思わない?」
「うん。そうであってほしい。いないんだよね?彼女…」
「…今は彼女はいないね」
“今は彼女はいない”って……妙な言い回しに胸がズキッと痛んだ。
それって、彼女じゃないけど特別な子がいる、とか、狙ってる子がいて、そろそろ付き合えそうな段階だ、とか……?
詳細を聞きたくても答えが怖くて聞けなくて……「そうだよね」と、素っ気ない返事をしてしまった。