Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第29章 寄せは俗手で【羽田秀吉】
仕事を終え、帰り支度をして、祝賀会の会場である飲食店へ歩いて向かう。
秀吉に人気が出てきてからというもの…普通の居酒屋だと人目が気になるようになり(着物姿じゃない彼を秀吉だと認識されるかは不明だが)…完全個室のお高い和食屋や焼肉屋を選ぶことが増えた。
今日のお店も例によって高級寿司割烹。お寿司もお魚も大好きだし、美味しいものが食べられるのは嬉しいけど…プロ棋士でもないただの事務員の私には金額的にキツい……でもお祝いだし仕方ない……!
そろそろそのお店の近く、って所で自分のスマホが鳴り出した。今夜一緒に集まる予定の一人、桜から電話だ。
「もしもし桜?」
「ごめんー!今日行けなくなっちゃった!秀吉におめでとう!って言っといてよー!私からもメールはしとくけど!」
「ええっ残念ー…久しぶりに4人で集まれると思ってたのにー」
「だからゴメンってー……王将戦のときは絶対行くから!」
「王将戦って…まだ最後まで残るかも決まってない」
「いや、秀吉ならいけるね、そしたらきっと来年は7冠だよー!その時は盛大にお祝いしなきゃね!」
「な、7冠って…そりゃあ、ねえ…」
7冠って、毎年行われる7つ全てのタイトル戦に勝利し続けなければ達成できない、とてつもなく凄いこと……たしかに今の勢いの秀吉なら成し遂げられるのかもしれないけど…
昔から秀吉って同世代の誰よりも強かった。でも今となってはその強さはもう異次元レベルであって……
なんか、随分遠くへ行ってしまったような気が…たまにする。
だけど…顔を合わせれば、やっぱり秀吉は秀吉だ。
「ー!僕また勝っちゃったよー!」
「秀吉ー!三冠だよ!すごいよ!」
お店に着いて個室へ案内されれば、珍しくスーツを着込んだ眼鏡姿の秀吉がひとり上座に鎮座し、気の緩みまくった顔でニコニコしていた。やっぱり、こういうフニャフニャした彼を見ると安心する。
隣…に座るのも変だし、テーブルを挟んだ向かいに座る。
「ねえ、今日桜来れなくなったんだって」
「知ってる。さっきメール来た。ちなみに晃も今日は欠席」
「ええっ!?なんで…それなら違う日でよかったのに!」
「…いいんじゃない?たまには二人でも」
「まあ、そうだね…」
今夜は秀吉と二人か…変な胸騒ぎを抱えながら食事が始まった。