Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第28章 手作りスイーツに下心【安室透】
それにしても、自分ってこんなに弱い人間だったのか。情けない。つい数時間前までは“女の子が暴漢に襲われる話”を作ってたクセに。
あ、もしかして、そういうことか。
「私が悪かったんですね、いっつも小説のネタとか変なことばっかり考えながら歩いてたから変なヤツに目をつけられたのかも」
「…たしかにそれも要因の一つかもしれませんが…さんには悪い所はひとつもありませんよ」
「でも今日だって…女の子が道で男に襲われる話を書いてた所だったんです」
「それはまた…じゃあ僕がポアロで見たのは襲ってきた男との話だったんですか?」
「あれは…道で襲われてる女の子を顔見知りのイケメンが救って…それからの二人の話です。襲われた記憶なんて吹き飛ぶくらい激しく愛し合うっていう…」
「へえ…なんだか今日の僕達みたいじゃないですか。僕がイケメンかどうかは分かりかねますが」
「安室さんはかっこいいですよ?おまけに強くて優しくて。ヒーローそのものです」
「……それなら、さんの怖かった記憶を全部吹き飛ばして上書きする役目も、僕に務まりますか…?」
「…?」
肩を更に抱き寄せられて、何故か目の前には安室さんの整った顔。
息が…掛かってしまいそうな程、近い距離。
記憶を吹き飛ばすって……それって、そういうことしよう、って誘われてるってことなのか……私と、安室さんが…?
「僕ではいけませんか…?」
優しいだけじゃない、色を含んだような声色…胸がジンジンと熱くなってきたのを感じる。
どうしよう、急に流れ出した甘い空気に思考がついていかない……
「もちろん、さんが望まないならそれで結構です。嫌がる女性に無理矢理手を出せば、僕もさっきの男と同類になってしまいますからね」
「…安室さんは、さっきの人とは全然違い、ます…」