Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第28章 手作りスイーツに下心【安室透】
今日は“あの謎の女性”と少しでも距離が縮まれば、と彼女に食後のデザートをサービスしてみたんだけど。
ケーキを手にテーブルに近付いても彼女は真剣な顔でPCを見つめていて、こちらに気付く気配がなく。
これ幸いとこっそりその画面を覗きつつ、声を掛けたらかなりビックリさせてしまった。
が、驚いたのは僕も同じ。彼女のPCモニターには縦に連なる文字の羅列……どうやら書きかけの小説と思われる、しかも男女が裸で絡んでいる明らかに情事の最中と思われる文言を見つけてしまったのだ。
動揺を悟られないように咄嗟に笑顔を取り繕い、ケーキを差し出した。
彼女は官能小説家なんだろうか?もしくはそういう類の出版社の人間なのか。
でもそれで腑に落ちた。時折見せるあの妖艶な顔付きはコレが原因だったのだ。つまり恋人がいるとも限らなさそう。
もし今日この後彼女に用事が無いのなら、一緒に外へ…そして上手くいけばお茶も……
結果、“謎の女性”こと小説家のさんを連れ出すことに成功、歩いてカフェに行き、成り行きでホテルの一室で彼女の著書を読ませてもらうことになった。
しかし僕は甘かった。たかが小説、文字の羅列如きに心を乱されることは無いと思っていたのに。
彼女の小説を読む内に、いつの間にかすっかり中の人物に感情移入し、自然と頭の中に浮かび上がる情景に興奮してしまいそうなのを抑えるので大変だった。
これを書いたのがさん…つまり彼女はこういうセックスが好みなのか?もしも実際に彼女と身体を重ねたら一体どんな感じなんだろうか……なんて余計な事まで考えてしまう始末……
本当に気がおかしくなる前に今日はお開きにし、ホテルを出て。
さんを歩いて送る。もう薄暗いし、実はホテルを出た辺りから妙な嫌な気配を感じるのだ。
「もう近くなのでここでいいです」と言われた所で別れ、僕は立ち止まったまましばらく彼女の後ろ姿を眺めた後……もと来た道を戻り出した。
「きゃ……っ!!!?」
数秒後、女性の叫び声のような声が後方から聞こえ、咄嗟に後ろを振り返る。すぐに身体はその声の方向へ向かって駆け出していた。
その先では、さんが男に腕を掴まれ引っ張られて抵抗している……!