Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第1章 月夜に現れた紳士は【キッド/快斗】
キッドだと仮定して、改めてカーテンに映る影を見てみると、成程・・・
角張った帽子に、マントを着用している人型に見えてくる。
床に尻もちをついたまま、もう一度カーテンに手をかけて、恐る恐るベランダを覗く。
やっぱりキッドと思われる男性が立っていて、こちらを向いている。
口元には微笑みが浮かべられていて。
私はフラフラと力なく立ち上がり、カーテンを開けて、窓の鍵も開けた。
でも、窓を開ける勇気はない。
ガラス越しに目の前の人物を、ただ見つめる。
彼の目元はよく見えないが、かなり若そうだ。
肌も綺麗だし、ハリもあって。
もしかしたらキッドは私と同じくらいの年齢なのかもしれない。
もしくは、若い男性に変装してるか。
彼の手が窓にかかり、ほんの少し窓が開いて、彼が放つ言葉が聞こえた。
「こんばんは、お嬢さん・・・突然お邪魔して、驚かせてしまった無礼を、お許しください」
声も若そう。
いやでも、キッドは声も変えれるんだったっけ・・・
「大丈夫で、す、でも、あなた・・・キッド、ですよね」
「そうですが、何か?」
「なんで、ここに・・・」
「次の獲物を狙うのに適した場所を探して飛んでいたんですが・・・勝手ながらコチラで少し休ませてもらっていました」
「・・・構いませんけど・・・警察にも通報は、しませんし」
「そうして頂けると助かります・・・貴女がよければ・・・もう少し窓を開けても?」
「ど、うぞ」
ゆっくりと窓がスライドされて、春の夜の少し冷たい風が入ってくる。
私達の間を遮っていたガラスが無くなったことで、結構近い距離で立っていたことに気付き、思わず一歩後ずさる。
「あの、よければですけど、中にどうぞ、寒いし」
「よろしいんですか?こんな夜中に知らない男を部屋に招き入れても」
「えっ?まあ・・・キッドさんだし」
「ではお邪魔します・・・貴女に寒い思いをさせるのも忍びないのでね」
彼が部屋の中に入ってくる。
信じられないことが、起こっている。
部屋の電気を付けようと、スイッチに手を伸ばした。
「申し訳ありませんが、明かりはこのままで・・・」
白い手袋を着けた手にそっと腕を掴まれて、電気を付けるのを制された。
考えてみれば私もすっぴんパジャマな訳で。
暗いままの方が有難いかもしれない。