Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第27章 一家勢揃!秘境の温泉宿【赤井秀一】
旅館の外へ出て、フラフラとあてもなく歩く。周りには本当に何にも無くて、街灯も少ない。月が出てるおかげで真っ暗ではないけど、秀一さんと一緒じゃなかったら……恐いと感じるかもしれない。
旅館の裏手、川沿いへ降りて建物の方を見れば、明かりのついた旅館の客室の窓が並んで見えた。
「わたし達の部屋はー……」
「あそこだな。窓際に誰かいるな」
「お父さんとお母さん……?」
顔まで判別できる距離ではないけど、なんとなく仲良さげな2つの人影が見える。
秀一さんのご両親は結婚してもう三十数年経ったそう。
三十年後のことなんて……今は想像すらつかないけど、わたし達もずっと仲良くいられたらいい。
もしも秀一さんがまた姿を隠すことになっても、例えばわたしの身体が縮んでしまったとしても……だ。
見つけた大きな岩に二人で腰を下ろし、遠くの空を眺める。東京では見えない小さな星まで沢山見える。
「綺麗ですねー……」
「だな……」
自分たちが黙れば、辺りは静寂。川の流れる音と、風が木を揺らす音がするだけ。
ずっと繋いだままだった手は、今は秀一さんの腿に置かれていて、上から彼の手が重ねられている。
秀一さんの肩に頭を乗せて、彼に寄りかかった。
特に何も喋らずそのまま。どれくらい経ったか。
不意に頬に手が添えられて秀一さんの方へ顔を向けられたと思ったら、唇と唇が触れていた。ひとつのキスにやたら時間をかけて、何度も柔らかく唇を重ねる。
しばらくして唇は離れたけど、それでもまだ至近距離で見つめ合ったまま。
このままじゃ……よからぬスイッチが入ってしまいそうで……目を伏せて頬にあった秀一さんの手を握り、下ろした。
「お部屋、そろそろ戻りましょうか」
「……ああ」
随分長い沈黙の後、立ち上がり、もと来た道を戻る。
旅館に入って履き物を替えている所で、声を掛けられ驚いた。秀一さんのご両親だった。
しかも、彼らは浴衣姿ではなく普通の服、それに大きな荷物を持っていて、まるで今から出掛けるよう。
務武「外に出ていたのか。遅いから心配したぞ」
秀一「父さん達こそ……なんだその格好は」