Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第27章 一家勢揃!秘境の温泉宿【赤井秀一】
“女湯”の朱色の暖簾を潜って、部屋に戻る前に冷たいお水でも買って飲みたいな……と辺りをキョロキョロしていると、自動販売機を発見。近くには椅子とテーブルが並べられたスペースもあり……その椅子の一つには、なんと秀一さんが缶ビールを片手に座っていた。
「、遅いぞ」
「……もう上がってたんですね」
秀一さんが待っててくれたのは少し嬉しいものの、胸元が深く開いた浴衣姿がやたら妖しく見えて、なんだか照れくさい。
自販機でお水のペットボトルを買ってキャップをひねりながら彼の横に座り、ゴクゴクと水を喉へ流し込む。
「今日は酒は飲まんのか?夕食の時も茶だったな。体調がすぐれんなら」
「全然元気です!ただ……初めて会った秀一さんのご両親の前で酔う訳には……」
「……気にせんでいいと思うが」
「わたしは気になるんです!」
「それならだって泊まる部屋は別々の方が良かっただろう」
「うーん……気を使わずに済むのはラクですけどね」
「……部屋に戻る前に散歩でもするか」
「こんな時間から?」
「ここは星が綺麗だからな」
「ああ……なんか今久しぶりに昴さんを思い出しました」
「沖矢昴はもういないがな……」
沖矢昴は“アメリカの大学に移って研究を進める”ってことにして、米花町から姿を消させたんだけど。
ふと、“沖矢昴”だった秀一さんと出会ってからの出来事が頭の中にグルグルと思い出された。
一緒に星を見上げながらお酒を飲んだ夜のこととか、手を繋いで星空を見ながら家に帰ったこととか……
「もう会えないんですね……」
「俺だけでは不満か」
「そういう訳じゃないけど……」
「声ぐらいならたまに聞かせてやってもいいぞ。変声機は便利だからな。そのまま持たせてもらっている」
「うわー!それちょっと楽しみかも」
缶の中身を飲み干した秀一さんは、椅子から立ち上がり缶を捨てて。こちらに片手を差し出してくる。
その大きな手を取って、並んで館内を歩く。
ちなみに秀一さんとこうやって堂々と手を繋いで歩くのにはまだ慣れない。(そういうのは昴さんとしかできなかったから)
ちゃんと恋愛期間を経て結婚するのに、手を繋いで歩くのが気恥ずかしいなんて、変な話だ。