Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第18章 朧月を見上げて【白馬探】
いつの間にかシンと静まり返った博物館の前。ベンチに白馬さんと並んで腰掛ける。(正確には、私、白馬さん、ワトソン、と並んでいる)
「白馬さんも今日はキッドを見に来てたんですか?」
「見に来てたって言うか……僕は奴を捕まえに来てたんだ。今回日本に来たのもそれが理由……また見事に逃げられてしまったけどね」
「そっちですか!?」
逃げられたって言う割に、どうも白馬さんの表情は清々しい……不思議な人だ。
「……あ、すみません。私はキッドファンとかじゃないですからね!お気になさらず捕まえてください……」
「そうなのか……まあそれよりも、もうそんなに畏まる必要はないだろ?僕達、歳は一緒なんだし」
「そう、だね……でも白馬さんって」
「“さん”も無しにしようか。僕も止めるから」
「んー……白馬くん?って、大人っぽいっていうか……」
「だってそうだけどね、交番で書いた調書を見るまでは、少し年上だと思ってた」
「えーっ!?私老けてる!?」
「違う。綺麗な人だなって思ってただけ」
「そ、そう……?」
“綺麗”だなんて人に言われたのはかなり久しぶりだ……どうしよう、全くもって落ち着かない。
「でもキッドのファンじゃないなら、今日はどうしてココにいたんだ?こんな夜に一人で」
「……それは……っ、内緒……」
「内緒、か……隠されると、余計知りたくなるんだけどね」
白馬くんの顔面が近付いてきて、顔を覗き込まれる。
えええ……近い!この距離恥ずかしすぎて無理!どうしよう!
焦った私はプイッとそっぽを向いて「知らなくていい!」と言い放ってしまった。
頭のすぐ後ろから彼の声がする。
「知りたい。でもそれだけじゃなくって、もっとの色んな事も知りたいかな」
「……それは、私もそう、かも」
正面に向き直り、密かに深呼吸をする。でもさっきより白馬くん、距離が近い……?
その後は何を喋ったのやら、緊張が酷すぎたせいか殆ど覚えていない……
唯一鮮明に覚えているのは、帰りに白馬くん(とワトソン)が自宅まで送ってくれて……その別れ際の出来事。
「明日、楽しみにしてる」って彼が笑ったと思ったら、左頬にチュ、ってキスをされたこと……
目を見開いたまま、帰っていく白馬くんを無言で見送ることしかできなかった……