Cherry-pick【名探偵コナンR18短編集】
第18章 朧月を見上げて【白馬探】
もうキッドは宝石を盗んだ後だ。もう白馬さんは博物館にはいないかもしれない。
だけどもう一度彼と会えるとしたら……もうこのタイミングしかないような気がして堪らなくて。
急いで近くまでやってきた。
キッドを見終えた大勢の観客達が帰るのと逆方向に私はひたすら人の間を掻い潜って博物館を目指す。近くをすれ違う人の顔も確認してるけれども、白馬さんは見つからない。
人混みがだいぶ無くなってきた時には、もう博物館はすぐそこ。
やっぱり、そんな簡単に会える訳がないのだ……
諦めて道端のベンチに座り、空を見上げる。今日も月が出ている。
どれくらいそうやって空を見てただろうか。突然バサっと音が聞こえ、風を感じて、そっちへ視線を向ければ……大きな茶色い鳥がすぐ横の街路樹に止まっていた。
「……ワトソン?」
思わず声が出た。しかもその鳥は私の声に反応してこちらを向いた。首を細かく動かしてて、何か言いたそうに見える。
野生のこんな鳥が東京の街中にいる筈がない。この子はもしかすると白馬さんの相棒だろうか……?つまりまだ白馬さんもこの近くに居るってこと……?
無言で鳥と見つめ合うことしばらく。ピーっと笛のような音が聞こえて。その鳥は大きく羽ばたくと、私の隣に降り立った。嘴でツンツン、と私の肩をつつくと、また羽ばたいて博物館の方へ飛んでいく。
無心で鳥を追い掛ける……その先には……スーツ姿のスラッとした人影……彼がいた。見つけた瞬間、足が止まってその場から動けなくなる。
「ワトソン……あれ……さん!」
「白馬さん……」
ワトソンを連れ、彼がこちらに近付いてくる。急に胸が詰まったように苦しくなってきた。
「こんばんは。すごい偶然だ」
「はい……」
本当は偶然じゃないけれども、頷く。
「さんも怪盗キッドを見に来てた?」
「いや、まあ……あはは」
テレビで白馬さんを見かけて家を飛び出してきた、なんてとてもじゃないけど言えない。
「ふーん?実は明日、さんを食事に誘おうと思ってた所でね。ちょうどよかった」
「えっ!?わ、私をですか!?」
「そうだけど?明日の夜は空いてる?」
「空いてます、はい……」
「それならよかった……せっかくだし……ちょっと座ろうか」